李登輝農学博士の遺言

 
2017年台湾花蓮市で 以下写真同じ

 先月30日に死去した台湾の李登輝元総統は、退任後9回度来日しているが、そのうち2008、2016、最後となった2018年の3度は沖縄を訪れている。それだけに同氏にゆかりがあり、同氏の死を悼む人たちは多い。

 石垣市に1995年「有限会社ゆいまーる牧場」を設立し、2001年、同市と北谷町で焼き肉店「金城」を経営する金城利憲氏もそうしたひとりだ。金城氏に、李登輝氏の農業、農家、農民に対する思いを聞いた。

——李氏との出会いは意外なところにあったんですね。

「李登輝総統が16年に石垣にいらっしゃった時は挨拶を交わした程度だったが、その後台湾でお会いした時に『あなたが金城さんですか。あなたと石垣牛のことはよく聞いてますよ』とおっしゃった。石垣の店舗がクルーズ船の寄港地に近いこともあり、台湾の乗員乗客らがよく利用していて、李氏の耳にも入っていたようです」

——李氏は八重山農業に強い関心があった。

「李登輝総統は京都大学農学部で農業経済学を専攻し、自身の言語は日本語であること、学徒出陣を経験したこと、新渡戸稲造の『武士道』に影響を受けたことなどを語った上で、農業経営談議になりました。『石垣はなぜサトウキビだらけなのか』と16年にいらっしゃった時の感想を述べていました」

——李氏はなぜサトウキビに着目?

「サトウキビは途上国や植民地に見られるプランテーション型の作物です。権力者は、民が貧しい方が治めやすい。抑えつけているのが権力の維持だと思い違いしている人が、今の政治家には多いです。思うに、サトウキビで豊かになった国は一国もないです。サトウキビは全世界で1億5千万㌧生産され、消費は22%、78%が余剰なんです」

——モノカルチャーの典型ですね。

「NHKでチェ・ゲバラの番組を見たんですが、彼がニカラグアで闘ったのはサトウキビです。そこでアメリカの大資本のオーナーと闘い、ニカラグア革命成功の後にボリビアで捕まるんです。「革命、革命」と人は言うけど、彼が闘ったのはサトウキビなんです。

 アフリカから人さらいのように黒人を奴隷として連れてきたのもサトウキビなんです。過去に薩摩藩はサトウキビで琉球を乗っ取っ取りました。NHKの大河ドラマ「西郷どん」では、砂糖奉行が上納高に届かない農民を投獄し、それを西郷どんが救出するシーンがあります。でも実際には西郷隆盛は沖永良部島ではそんなに好かれていなくて、むしろ嫌われています。サトウキビの利権を掌握していたんじゃないかと言われています。実は李登輝総統はそのこともよく知っていました」

——歴史的背景も押さえていたんですね。

「農業経営の観点のみならず、歴史的背景も熟知した鋭い洞察だと思いました。

 李登輝氏が総統になって真っ先に取り組んだのは疲弊した農業をどう立て直すかです。年1回しか収穫できないサトウキビに代わり、園芸作物や熱帯果樹、畜産に舵を切りました。

 畜産では台湾牛生産のためにサトウキビ畑を牧草地に切り替え、30万頭の養豚にも取り組みました。私が『年1回のサトウキビをやめて牛を飼えば、牛は毎月出荷できて収入も得られ、子供を学校に行かせることができる』と言ったら、大きくうなずいていました。

 熱帯果樹では、八重山はマンゴーやレンブ、釈迦頭などの栽培に成功し、李氏の農業改革の恩恵を存分に受けています」

——李氏は石垣牛のブランドに興味を示した。

「『君が農会(JAに相当)に反旗を翻して、石垣牛を広めた男か』と出迎えてくれました。

 2000年の九州・沖縄サミットの歓迎晩餐会のメインディッシュに石垣牛を採用してもらえるなど、ブランド化に努めてきたつもりです。

 しかし当初は風当たりも強く、潰しにかかられたこともありました。畜産は100億円、サトウキビは4億円。サトウキビより牛が儲かるので、農家はサトウキビ畑を牧草地に替えてしまいます。そうすると組織の存続意義がなくなるから焦ったのだと思います。『サトウキビをやめたら無人島になる』と言い募って、景観条例まで作ってサトウキビ畑を守ろうとした。彼らにとっては農民の所得向上よりも、廃村すれすれでサトウキビ畑が広がっていればいいんです」

——李氏の跡を継いだ陳水扁総統が2002年11月、農会改革を打ち出すと10万人規模のデモが行われました。小規模農家の反発が強かった。農会と農民の関係はそのままJAと農民の関係に映りますね。

「例えば、農協(JA)は一括交付金を1千億円取得して、伊是名島に50億円、多良間島に70億円、石垣に260億円、波照間に29億円、与那国に29億円、小浜島に23億円、西表に23億円の製糖工場を造って、費用対効果の低い投資をしています。他にも農業以外の投資をしていて、誰のための組織なのか分かりません。補助金を分配することで天下り先を確保し、政治力を保っています」

——李氏は農民の所得向上の阻害要因がサトウキビにあると見抜いていたわけですね。

「先ほど話したように沖縄の歴史にも詳しく、それゆえ『貧困につながる400年間続いたサトウキビはやめるべきです』と李登輝総統は強く言っていました。八重山、沖縄を見る目は常に台湾に重なっていたと思います」

——花蓮の牧場で李氏と共同で「台湾和牛」の育成を進めてきたそうですね。

「陽明山で育てた牛と掛け合わせた一代種を李登輝総統が『源興牛』と名付けました。年内に和牛の登録審査に臨む予定です。きっと天から見届けてくれるはずです」

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友寄 貞丸

友寄 貞丸

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伊江村出身。1990年から主に中国、台湾の取材執筆活動を続ける。2014年11月Uターン。著書に『雲南哀楽紀行』(愛育社)など。国境を越えても一線を越えない旅と取材を信条とする。

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