往来再開には入国時に簡易にPCR検査できる体制が必要 在沖台湾代表に聞く

 
范振國台北駐日経済文化代表処那覇分処長

 新型コロナ対応を巡り、政府、民間が組織を挙げて迅速に取り組み、感染者・死者数を最小限に食い止め、世界に範を示した台湾。7月で就任2年を迎えた台北駐日経済文化代表処那覇分処(領事館に相当)の范振國処長(領事に相当)に、新型コロナ対応が成功した理由、国際社会での台湾の位置づけ、香港に施行された「中国国家安全維持法」への国民の衝撃、渡航制限の緩和の時期、台湾と沖縄の未来像などについてインタビューした。

WHOが台湾の警告を受け入れていれば、これほどの被害拡大はなかった

――新型コロナの封じ込めは世界でも称賛を集めています。

范振國処長(以下、范処長) 迅速に対応できたのは、台湾は2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の時に大きな被害を受けた経験があるからです。当時は中国との交流が活発で、疫病への経験値も少なく警戒感も薄かった。それを教訓に疫学研究や水際対策などに徹底的に取り組みました。その成果が表れたのです。

――台湾の研究者が昨年暮れ、世界保健機関(WHO)にウイルスは新型だとして、警告するメールを送っていました。

范処長 動物からヒトに感染はしないと言われていましたが、既に動物―ヒト―ヒトの感染の可能性を示唆し、パンデミックも起こりうると警告したものの、WHOはこれを無視したのです。ご存じのように、中国の政治力によって台湾はWHOから排除されているので、受け入れられませんでした。台湾国内では新型コロナは封じ込められたものの、残念なのは世界中で大流行してしまい、いま第二波が来ています。WHOが台湾の警告を受け入れ、各国に注意喚起していれば、現在ほどの被害拡大には至らなかったはずです。

――日本では「マスク在庫マップ」のアプリを開発したIT担当相(オードリー・タン氏=唐鳳氏)が脚光を浴びていますが、組織を挙げた取り組みが功を奏したのでは?

范処長 感染症に対して専門的な知識を持つさまざまな分野の人材を集めた「中央流行疫情指揮センター(CECC)が司令塔となり、歯科医師資格を持つ陳時中衛生福利部長(保健相に相当)が陣頭指揮を取って、24時間体制で関連情報を発信しました。ウイルスは変異するし、またいつ二波、三波が来ても対応できるように、まさに臨戦態勢でした。

――今の日本の体制からすれば、本当に羨ましい。

范処長 もちろん各省庁には縄張り意識もあるかもしれないが、そこをうまく調整して各省庁の資源を出し合いました。出入国なら税関、治療薬やワクチン開発の研究なら衛生福利部、外国人労働者なら労働部、留学生なら教育部というように。また与党野党の枠を超え、一致団結してウイルスに立ち向かうこともできました。台湾はWHOの一員でなくても、医療水準の高さで国際社会にその存在をアピールできたのです。今まで台湾に関心を示さなかった国々も注目しています。これらの国々に感謝したいです。

香港の姿は台湾にとっても痛ましい

――さて、香港に施行された「国家安全維持法」についてです。台湾の人々にとっては「明日は我が身」では?

范処長 よく言われるのは「今日の香港は明日の台湾」です。ただ香港との違いは、香港がイギリスの統治下にあったことです。返還時、中国政府は「一国家二制度」を50年間保障すると言っていました。台湾ではその制度が守られると思っていた国民も少なくはなかったのです。しかし今回の事態を受けて、多くの人々が「制度は幻想だった」「中国の本質が分かった」「目が覚めた」と感じたわけです。イギリス統治の下、自由と民主主義を享受し繁栄を極めた香港が、中国共産党の支配下になっていく姿を見るのは、台湾の国民にとって本当に痛ましいことです。

――この法律が怖いのは、香港住民だけでなく外国人にも適用されること。

范処長 そうです。法律の適用の範囲があまりにも広すぎて、しかも中国当局が恣意的に運用できる。ですから、台湾政府は法律が発効される前の6月の段階で、国民に向けて香港に渡航する際のリスクを想定し、注意勧告を出しました。

――50年持たなかったですね。

范処長 23年で有名無実化してしまいました。

――台湾の選挙ではこれまで、経済重視の中国との融和か、台湾独自路線かというのが争点になってきた。しかし今後は、この二項対立は成り立たないような気がします。

范処長 蔡英文総統は、観光客や農産物など貿易相手を中国だけに頼るのはハイリスクと受け止め、観光政策ではビザ条件を緩和し、東南アジア諸国からインバウンドを増やしました。中国は台湾への渡航制限をしたり、農産物の輸入を停止したりして揺さぶりをかけるので、不安定でもあり、中国への不信感が高まって中国頼みから脱しようと方針転換を果たしたのです。

――ビジネスで政治を取り込む……というような四字熟語ありましたね。

范処長 はい、「以商囲政」です。商売を政治に利用する。そうならないために投資先を中国からASEANにシフトし、リスク分散を図っています。

台湾側も「沖縄は安全だ」と認識

――そこで、沖縄との関連で伺います。新型コロナウイルスで交流が止まっているのが本当に残念です。

范処長 私が最初に赴任した10年前、台湾からの観光客はわずか12万だったのが、昨年は95万人に伸びました。NAHAマラソンも今ではランナー、応援団含めて約千人が来沖しています。このようなイベントは、観光と民間交流の相乗効果が期待できます。台湾人の国民性として、旅行は国内の温泉地などではなく海外志向。沖縄は立地条件も良く知名度も抜群です。

――渡航制限の緩和のタイミングは?

范処長 県内の関係団体などが当事務所を訪ねてきて、安全な台湾から受け入れを再開したいと要請を受けました。基地内クラスターこそ発生したものの、それまでは2カ月以上感染者ゼロが続き、台湾側も「沖縄は安心だ」という認識で一致しています。しかし、制限解除は一地方ではなく日本全体が対象になるわけです。沖縄だけを認めると「なぜ沖縄だけが」とさざ波が起こることも懸念されます。

 両国民が安心して往来できるには、入国時にPCR検査が簡単に行えることが必要です。台湾は缶ビール大で、1回で6人分の検査ができて10分で結果が判明するキットを開発しました。これを空港で採用すれば、陰性なら安心だし、陽性は陽性で隔離して対策が打てます。

――最後に、台湾と沖縄への思いを。

范処長 7月で就任2年を迎えました。その前にも6年赴任しています。外交官はいつどこの国、部署に異動になるか分かりませんが、日本畑として沖縄に赴任できるのは幸せです。「初めて来たのに懐かしい」という感慨は、台湾を訪れる沖縄の人々にもあると聞いていますが、気候も温暖で人々も温厚で、沖縄には愛着があります。経済や安全保障など運命共同体として、台湾と沖縄が今までの「交流」から「パートナーシップ」の段階へと、双方が力を合わせて一歩前へ進めていきたいです。

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友寄 貞丸

友寄 貞丸

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伊江村出身。1990年から主に中国、台湾の取材執筆活動を続ける。2014年11月Uターン。著書に『雲南哀楽紀行』(愛育社)など。国境を越えても一線を越えない旅と取材を信条とする。

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