「沖縄」を話し続け、考え続ける 『わたしが沖縄を発信するワケ』イベントレポ
- 2023/4/17
- 社会
90年代生まれ世代の書き手が中心となって沖縄についてのコラムを毎週配信している「あなたの沖縄|コラムプロジェクト」が、トークイベント「わたしが沖縄を発信するワケ」を那覇市の沖縄Outputで開いた。コラムプロジェクトにとって初となるイベントには、主宰の西由良さん、ラッパーのRude-αさん、映画監督の仲村颯悟さんの沖縄出身3人に加えて、モデルの前田エマさんが登壇。それぞれが眼差す沖縄についての思いを言葉にして重ねる“セッション”は約3時間に及んだ。
安心して「沖縄」を喋れる場
会場の客席は出演者と同世代の20~30代を中心にほとんど埋まっており、それよりも上の40~50代の世代の姿もあった。アルコール片手に、ラフな雰囲気が漂う。
ゲストを呼び込む前に、西さんが「沖縄についての思いや気持ちを、気軽に安心して喋れる場を作りたいと考えていました」とイベント開催の主旨を説明する。「同世代で活躍している人たちとの話を通して、『あなたの沖縄』の活動が少しでも社会に広がっていけばいいなと思います。沖縄に対する思いを誰かに伝えてみようと思ってもらえたら嬉しいです」
出演者が出揃うと西さんが進行役を務め、「あなたの沖縄」のコラムやそれぞれの沖縄への思いや見方について質問を投げかけながら対話を重ねていった。
同じ沖縄市出身で仕事も共にしたことがある仲のRude-αさんと仲村さんは、気心の知れた関係。Rude-αさんの奔放な語りに仲村さんが突っ込み、その逆もありで、度々漫才のようなやりとりを繰り出して会場の笑いを誘い、空気を朗らかにした。唯一の県外出身者だった前田さんは、少し遠慮しているような態度をみせつつも、慎重に選んで発される言葉は思慮深さをたたえていた。
“言い切れない気持ち”を表現すること
「色んな視点から、結論が出ないような話や複雑で言い切れない気持ちが正直に書かれている所に、大事なものがたくさん含まれているんじゃないかと感じました」。冒頭、コラムについての感想を語った前田さんのこの言葉が、「あなたの沖縄」の活動の核心的な部分を表したことでイベントの輪郭をよりくっきりと示す。
沖縄の見方が変わった経験を巡るトークでは、仲村さんが大学進学で上京して初めて迎えた慰霊の日が「衝撃」だったと話した。
「沖縄では当たり前のようにうーとーとー(祈ること)してたんだけど、大学は平日で当たり前のように授業でした。いつもNHKの時報に合わせて黙祷していたんですが、その時の正午のニュースのトップは海外の出来事だったんです。慰霊の日は3番目くらいだったかな。『今日は慰霊の日なんだよ』って言っても周りの友だちはみんな知らなかったんですよ。祈ってたのは沖縄の人だけだったんだ、って」
その時に感じた気持ちを歌にしてみたがあまり上手くいかず、それでも表現したい欲求に従って「自分の強み」という映画で形にしたのが『人魚に会える日。』(2016)だったという。
前田さんはコロナ禍でBTSにハマり、彼らの社会的な歌詞から「市民が声を上げて社会を変えてきたこと」に関心を持った。自身で「わたしのために、世界を学びはじめる勉強会」を企画し、韓国の社会、難民・移民などについて学びを重ねる中で、「日本の中にたくさんの問題を抱える場所がある、ってハッと気づいて」テーマに選んだのが沖縄だった。
「大人になって何かを知ろうとした時に、音楽とか映画とか文学が、最後の砦になると思っているんです」と前田さん。エンタメの力と可能性を重視していることもあり、沖縄をテーマにした勉強会にはミュージシャンの宮沢和史さんを招いたという。
音楽と映画で伝えることの強み
前田さんの話を受けて、歌や映像で沖縄を表現・発信することに話題が移る。
昨年の慰霊の日に沖縄戦の記憶や平和について、現在沖縄の情景を交差させて歌った楽曲「うむい」をリリースしたRude-αさんは、曲を聴いたリスナーの反応についてこう語った。
「沖縄のライブで歌った時には『涙を流して聴いたよ』っていう人がいたし、県外で歌うと『今日まで何も知らなかったけど、考えるきっかけになりました』っていう反応もあって。そういう言葉を聞くと、基地の話とか沖縄戦のことを伝える役割をほんの少しでも担えてるのかなって思ってます。全員に分かってもらうのは難しいかもしれないけど、目の前の1人1人に伝えることは出来ているのかもしれないって」
表現の中で戦争や基地のことに触れると「当然批判もきます」とRude-αさん。米軍基地で働いて自分を育ててくれた父親への思いもあり、「うむい」では基地について「僕には答えが分からない」と歌った。YouTubeのMVには「答えが出てから歌ってください」というコメントもついたという。それでも、今の自分に言えることは「答えが無い、というのが答え」と断言。
「結局1番強く思ってることって、平和が続いてほしいということ。みんなが幸せな世界を願うのは共通して一緒のことだと思うから」。そんな気持ちを込めてイベントの中盤で歌われた「うむい」の響きは、観客の心を強く震わせた。
仲村さんは、基地問題についての描写もある自身の映画『人魚に会える日。』を東京で上映した際、作品を観てくれた友人が涙していたという思い出について話した。
「そんなに沖縄のことを考えてくれてたのか、と思ったら、その人は福島の被災した地域の出身だったんです。映画を観て『同じだよ』って言われた時に、受け取ったものを自分ごとに引きつけて感じてくれたことが分かって、とても嬉しかったですね。僕たちは今こうして沖縄について語っているけど、どこの地域にもたくさんの問題があります。それを受け取って感じられるようにするのが、音楽や映画の強みだと思っています」
さらに「自分が出来る表現をしているだけで、沖縄を代表しているという思いはないんです」と続ける仲村さん。「みんながそれぞれのやり方で何かを発信して伝えていくことが、これから先につながっていくんじゃないですかね」