沖縄出身者初の競走馬生産牧場 北海道で「かりゆしファーム」
- 2022/12/1
- エンタメ・スポーツ
那覇市出身の大城一樹さん(39)は今年10月、北海道浦河町で競走馬の生産牧場「かりゆしファーム」を立ち上げた。競馬場がない沖縄県の出身者としては初めての開業。南の島で生まれたかつての競馬大好き少年は、北の大地の馬産界で勝負を懸け続けている。
小さな牧場の挑戦
現在かりゆしファームで所有する繁殖牝馬は3頭。その他にも預託された育成馬や現役競走馬の管理もしている。来春には、同牧場初となる仔馬も誕生予定で、順調に行けば2025年に競走馬として華やかな舞台に上がる予定だ。
競走馬の牧場は、交配・生産をして1歳まで育てる「生産牧場」と、競走馬にするための騎乗訓練や調教を行う「育成牧場」がある。
大城さんは「近年はネットで馬券を買う人が増えたおかげで、競馬の市場が大きくなり産駒(仔馬)の売却価格も底上げされている傾向があります」と話すように、馬産全体が盛り上がる一方で、かりゆしファームのような零細の生産牧場は減少しているのが実情だ。それでも大城さんが「生産」にこだわって開業した理由は何なのか。
「生産をしないことには何も始まらないですから。自分の頭で配合を考えて、自分の手で生産をして、納得の行く良い馬を作りたいです」
沖縄から競馬業界へ
県外と比べて競馬文化が浸透していない沖縄。大城さんと競馬が出会ったきっかけは何だったのか。
「小学生の時に『ダービースタリオン』(競走馬を育成するテレビゲーム)をやって競馬の世界に興味を持ちました。周りで僕以外に競馬好きはいなかったですね」
高校は県内有数の進学校に入学したが、大学進学をためらった。競馬の仕事には多様な職種があり、大学に行く以外にも進路の選択肢があったからだ。
「進学して競馬記者になるか、ビジネスで成功して馬主になるか、北海道で馬を育てるか。悩みましたが牧場で働く将来を選びました」
競馬の世界に飛び込みたいあまり、高校卒業までどうしても待てずに、3年生の夏休みに北海道の岡崎牧場(後にミリオンファーム)に頼み込んで、住み込みで働いた。
「最初は『馬に触れたこともない沖縄の人間が北海道の牧場で働くのは厳しいからやめておけ』と何度も断られました。夏休みを過ぎてもずっと北海道にいたので、高校から電話が掛かって来て『そろそろ帰って来なさい』と」。それほどまでに大城さんの競馬熱はアクセル全開だった。
高校卒業後にそのまま同牧場に就職。三冠馬「ディープインパクト」がフランスでの凱旋門賞挑戦の際に帯同馬として共に渡った「ピカレスクコート」や、重賞2勝の「ルールプロスパー」などの生産・育成に携わった。
「分業が主流の中、生産も育成もワンストップで行っている牧場で出産に立ち合い、調教で騎乗したりなどの多くの経験を積ませてもらいました。ヨーロッパ留学も行き、海外ではゆったりじっくり乗る『馬なり調教』や、馬をメンタルからも作り上げていくような、感覚重視のナチュラルな育成方針も学びました」
沖縄の人に馬の魅力を
北海道で競走馬生産に携わり続けてかれこれ20年以上。大城さんに、これからのホースマンとしての夢を訊いた。
「ダービーに出走するような馬を作りたいのはもちろんなのですが、沖縄の人にもっと競馬の仕事を身近に感じてもらいたい。県出身者をインターンで受け入れるなどして、足掛かりになれればと考えています」
また、競走馬だけでなく、琉球在来馬の保護にも繋がればと願っている。
「沖縄の人たちにもっと馬の魅力を知ってもらえれば、天然記念物である宮古馬や与那国馬にも親しみを持ってもらえるかもしれないですね」
開業1年目、沖縄出身の牧場主が競馬界で躍動する時を期待したい。