「レイアップに行けていない」から始まったキングス・今村佳太の“劇的な進化”とは
- 2023/10/13
- エンタメ・スポーツ
2Pとアシストの精度が向上
前半戦こそ「ペイントエリアに深く入り過ぎてパスを出すのが遅れたり、止まりきれずにジャンプパスになってカットされたりとターンオーバーが多かった」というが、シーズンが進むごとに徐々に状況判断の質が向上していき、終盤戦の今年3~4月頃にかけて「感覚的に良くなってきた」と振り返る。
その時期にあった名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦では、ピック&ロールでスクリーナーが想定とは違う動きをした時に、相手ディフェンスの動きを冷静に見ながらドライブを仕掛け、コーナーで待つ味方も視野に入れながらレイアップまで行けた時があり、プレーに余裕が生まれてきていた。シーズンを通し、味方のフリーでのコーナー3Pを演出する場面も増えた。
その変化は、数字にも如実に表れた。
よりゴールに近い位置でシュートが打てるレイアップの頻度が増えたため、自身の総得点のうち2Pシュートが占める割合は、データがある直近3シーズンの中で最も高い38.5%に上昇。ハンドラーとしてのスキルを磨いたことでシュートの平均試投数(10.7本)、平均成功数(4.1本)がキャリア最多となり、平均得点は前のシーズンの10.5点から11.3点に上がった。
平均アシスト数は前のシーズンの1.9本から3.6本に上昇。本数で見ると106本から213本と2倍に増えた。今村のアシスト数がチーム全体のアシスト数に占める割合は、直近3シーズンの変遷を辿ると2020-21シーズンが8.3%、21-22シーズンが9.0%、そして22-23シーズンは17.0%まで急増しており、キングスのオフェンス面でいかに今村の存在感が高まっているかが分かる。
次の課題は「パスのスピード」
一方で、まだ課題もある。今村と山下コーチが口を揃えるのは「パスのスピード」だ。事例を交えながら今村が説明する。
「昨シーズン、(#34 小野寺)祥太さんについているディフェンダーが自分のドライブに対してヘルプに来て、割と祥太さんがコーナーでフリーになる場面が多かった。そこにキックアウトするシチュエーションが何度かあったのですが、祥太さんが『パススピードが遅くてタイミングがずれる時がある』という話をしていたんです。それは僕も感じていました」
シューターにとっては、キャッチしてそのままシュートに移行しやすい「シューティングポケット」と言われる位置にどれだけ真っ直ぐで速いパスが来るかが打ちやすさを左右するポイントの一つになる。そのため、小野寺はこのような指摘をしたのだろう。
こんなエピソードがある。昨シーズン終盤の時期、山下コーチが今村など複数の選手にあるプレー動画を見せた。
「NBAのロサンゼルス・レイカーズでプレーするレブロン・ジェームスが、プレーオフの試合でドライブを仕掛け、リング下から逆サイドの45度にいる味方に目で追えないくらい速いパスを出した動画です。しかもシューティングポケットに見事に入り、受けた選手は100点満点のキャッチ&シュートで3Pを打っていました。このプレーを選手たちに見せて、『パスの質を上げていこう』という話をしました」(山下コーチ)
昨シーズン、千葉ジェッツと行ったファイナルでは、今村がその動画のレブロンと似たようなシチュエーションでドライブからコーナーに待ち構えていた#88 牧隼利にキックアウトし、キャッチ&シュートで3Pを決めたシーンがあった。その後にプレーが止まった時、今村がベンチで「レブロンできた!」と言うと、山下コーチは「パススピードがまだまだ」と釘を刺したという。
キックアウトのパスは、体が向かっている方向とは別の向きにパスを放ることが多いため、ボールに力を伝えるのが難しい。そのため、今村は「腕のあたりだけでコントロールするのではなく、肩甲骨とかも使わないと根本的なスピードは上がらない。あとパスを出す直前のボールのキャッチも重要です。キャッチの時点でずれてしまうとうまく力が伝わらないので、そこもより意識しています」と細かい体の感覚と向き合いながら向上を見据えている。
今夏に沖縄アリーナなどで行われたFIBAワールドカップで日本代表のジャージを着られなかったことを「めっちゃ悔しかった」と振り返る今村。目標に掲げる来夏のパリ五輪出場に向けて「今シーズンのBリーグではより他チームにとって圧倒的な存在になり、当たり前に日本代表に選ばれるようになりたいです」と堂々と野心を語る。進化の歩み止めないキングスのエースから、目が離せない。