【視点】南沙諸島と尖閣諸島は違うのか?

 
南沙諸島のファイアリークロス礁 2020年3月撮影 出典:CSIS/AMTI/Maxar

 中国による南シナ海の南沙諸島の軍事拠点化が進んでいる。南沙諸島は周辺諸国と中国と領有権を争っている島々だが、中国は一方的に主権の存在と軍事拠点化の合法性を主張している。中国は東シナ海の尖閣諸島についても主権の存在を主張しているが、日本固有の領土であり、沖縄県の一部である尖閣諸島をどう守るのか、その重要性は年々増している。

中国が主張する「九段線」

 中国はそもそも南シナ海を取り囲むように「九段線」を設置している。九段線は、中国の管轄権がおよぶと主張する地理上の概念だが、法的根拠は明らかになっていない。この九段線の内側には、岩礁・砂州を含む無数の海洋地形である南沙諸島などが入っているが、フィリピンが国連海洋法条約に違反するなどとして2013年にオランダ・ハーグの仲裁裁判所に提訴した仲裁裁判では、歴史的権利を主張する法的根拠はないとする判決を下している。

中国が主張する「九段線」令和3年版防衛白書より

 それにも関わらず中国は南沙諸島の岩礁などを利用して人工島を建設、3000メートル級の滑走路や大型強襲揚陸艦やその他の艦艇が利用できる軍事拠点化を進めている。

3礁はすでに完全に軍事化

 この中国の行動について、米インド太平洋軍のアキリーノ司令官が先ごろ、AP通信によるインタビューで、「ミスチーフ」「ファイアリークロス」「スービ」の3礁について中国が完全に軍事化したことを明らかにしている。

 司令官は、対艦・対空ミサイルシステムや戦闘機などを配備できるとの見方を示したうえで「周辺で活動する全ての国や、国際海域・空域を脅かしている」と強調した。

 このアキリーノ司令官の発言について中国外交部は、「自国の領土で防衛施設を配備するのは当然の権利だ」としている。「九段線」では管轄権という主張だったが、すでに「自国の領土」として、主権が中国にあることを明確にしているのだ。

 この南沙諸島のように、中国が主権の存在を主張しているのは、尖閣諸島も同じだ。中国が海警局の公船を尖閣諸島周辺の日本領海にたびたび侵入させている。その海警局の船に武器使用を認める中国海警法も施行している。

 そして、中国の領海侵入に対する日本政府の抗議に、中国外交部は「魚釣島と付属する諸島は中国固有の領土であり、中国の海警局が魚釣島の海域で航行し法執行を行うのは、中国が法に則って主権を守るための正当な行為だ」と反論している。

 つまり、中国にとっては南沙諸島も尖閣諸島も同じ、中国の領土というわけだ。

 中国からみれば、南沙諸島の主権を主張するフィリピンも、尖閣諸島を領土だとしている日本も不法ということになるのだろう。

中国が自制する理由は

 では、中国はなぜ南沙諸島で人工島を建設し、それを軍事拠点化するという実力行為におよび、尖閣諸島では領海侵入にとどまっているのか。もちろん、領海侵入も中国の不法行為で許されないことだが、南沙諸島に比べれば、まだ自制しているといえるかもしれない。

尖閣 沖縄ニュースネット
尖閣諸島の魚釣島 内閣官房HPより

 その中国が自制する理由は、日米安全保障条約の存在だ。日米安保条約の第5条の前段は「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する」と規定している。

 これは、米国の対日防衛義務を定めたもので、日本の施政の下にある領域内にある米軍に対する攻撃を含め、日本の領域に対する武力攻撃が発生した場合には、日米両国が共同して日本防衛に当たることを規定しているものだ。仮に日本のどこかで〝有事〟が発生すれば、日米合同で対処するということになる。

 しかし、尖閣諸島は日本の固有の領土とはいえ、中国が領有権を主張していることも事実で、尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用範囲かどうかが問題となる。

 もちろん日本は、日本の固有の領土としているから、第5条の適用を受けると解釈するのは当然なのだが、問題は米国の解釈だ。

 これについては歴代首相や外相が、日米首脳会談、日米外相会談の機会を捉えて確認している。

 岸田氏が首相就任した直後の2021年10月5日に行われたバイデン米大統領との日米首脳電話会談でも、バイデン大統領が、日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用を含む、対日防衛コミットメントについて発言している。近年では菅前首相、安倍元首相時代に行われた日米首脳会談でも、米側は同様の発言をしている。

抑止力が機能

 日本は自衛力だけでなく、日米安保条約によって日本の領土、領空、領海の保全、ひいては国民の生命、財産を守る体制になっており、それが抑止力として働いているわけだ。そしてその日米安保条約は、米軍が日本に駐留していることで機能している。

 安保条約第6条では「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」と規定している。

 日米安保条約の機能が有効に保持されていくためには、日本が平素より米軍の駐留を認め、米軍が使用する施設・区域を必要に応じて提供できる体制を確保しておく必要があるわけだ。

 ロシアのウクライナ侵略で、国際的な緊張が高まっている。それは欧州だけでなくアジアでも警鐘を鳴らすものだ。もちろんそれは現実化するものではないかもしれない。しかし、万が一現実化した場合でも備えるのが安全保障だ。

 沖縄県の一部である尖閣諸島はもちろん、今後の日本の安全、領土や領海、国民の命と財産、そして自由で民主主義体制を守るためには、日米安保体制、在日米軍の役割を正しく認識する必要があるだろう。

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