「レイアップに行けていない」から始まったキングス・今村佳太の“劇的な進化”とは
- 2023/10/13
- エンタメ・スポーツ
プロバスケットボールBリーグの2023-24シーズンが開幕し、西地区の琉球ゴールデンキングスにとって2連覇に向けた新たな挑戦が始まった。今季もエースとしてチームを引っ張るプレーが期待されるのが、所属4シーズン目の#30 今村佳太だ。
9月下旬から中国・杭州で開かれたアジア大会に日本代表として出場してチームへの合流は遅れたが、若手主体のアカツキジャパンで度々二桁得点を挙げて主軸を担い、頼もしい活躍を見せた。オフェンスを組み立てるハンドラーとしてのスキルやスリーポイントシュート(3P)は、国際大会の舞台でもいかんなく威力を発揮していた。
今村は昨シーズン、Bリーグのレギュラーシーズンで11.3得点、3.6アシストとキャリア最高のスタッツを記録し、心技ともに著しく成長した。2シーズン前までも得点能力は高かったが、具体的に何が変わったのか。オフェンス面を中心に今村本人、選手たちのスキル指導を担う山下恵次プレーヤーデベロップメントコーチに聞いた。
「ペイントタッチすればいい事が起きる」
「レイアップまで行けていないよね」
昨シーズンの開幕前、共に新潟経営大学出身の今村と山下コーチは同じ課題感を共有していた。実際、それまでの今村はドライブを仕掛けることはできても、ビッグマンがカバーに来た時に成功率が安定しないフローター(高い機動で放つシュート)を打たされる場面も多く、ドリブルを始めてからの選択肢が限られていた。
「佳太がピック&ロールを使うケースは多いのですが、2シーズン前まではちゃんとレイアップまで行けてなかったんです。自分が意図していないフローターを打たされてしまうことも多く、オフのワークアウトでペイントエリアでのフィニッシュの質を変えたいなと思っていました」(山下コーチ)
「リングまでは行けるんですけど、そこからさらに打開する自分の形がなくて歯痒い気持ちがありました。3Pだけでは相手も止めやすい。レイアップをする回数をどれだけ増やせるかが大事になると感じていました」(今村)
レイアップシュートはドリブルしてゴールへ向かい、その推進力を利用してゴール下からボールを放るシュートだ。バスケをやる人にとっては、初めに習うシュートの一つ。年々ハンドラーを担う機会が増えている今村にとって、なぜこの基本のシュートの回数を増やすことが重要なのか。今村が言う。
「キングスにいた時に並里成(現群馬クレインサンダーズ所属)がよく言っていましたが、ペイントエリアに入ると自分や周りの選手にとって良い事が起きる。深い位置までアタックできると相手のディフェンスが収縮するので、そこから自分のシュートやキックアウトができるようになります」
理論上は間違いないが、簡単なことではない。ドライブで一人を抜いても他のディフェンダーがカバーに来るし、ペイントエリア内は身長2mを超すようなビッグマンが複数待ち構えているため、工夫も無くレイアップに行ってもブロックされてしまう。その中でレイアップを決め切れるだけのスキルがあれば、今村が言うように相手ディフェンスがより自身に寄ってくるため、他の選手がフリーになる状況を演出できる可能性は高まる。
“目線”を上げる 宇都宮の#42 フォトゥ相手に実感
それまで「ドリブルのリズムが一定だった」と自己分析する今村は、まずフィニッシュのレイアップまで持っていくために山下コーチとのワークアウトで「溜め」をつくることや、タイミングのずらし方を習得。今村が「ピック&ロールは2対2のシチュエーションですが、関わっている4人以外の味方や相手の選手をどれだけ見られるかが大事になります」と説明するように、さらに意識的に取り組んだことは「目線」を変えることだった。
ボールをコントロールしながら、自らシュートに行った方がいいのか、それともパスを選択した方がいいのか。刻一刻と状況が変化するコート上の「カオス」の中で最適な状況判断ができる力を追い求めた。その成果は、昨シーズン開幕戦の宇都宮ブレックス戦で早速形となって表れた。
「ジャック(クーリー)がピックに来て左にドリブルをつき、最初は3Pを狙おうかと思って一瞬目線を上げたんです。そしたら宇都宮の(アイザック)フォトゥが前に来たので、ギアチェンジしてドライブに行きました。フォトゥが並走してきたので、ブロックされないようにスクープシュート(下からすくうように高く浮かせるシュート)で決め切りました」
無意識のうちに体が動き、「オフシーズンで取り組んだ成果が出た最初の瞬間でした」と振り返る。