新型コロナウイルス感染症の収束はまだ見えない。沖縄県の「まん延防止等重点措置」は先ごろ解除されたが、まだ警戒が必要なことは言うまでもない。このコロナで浮き彫りになったのは沖縄県経済の脆弱性だ。コロナを契機として、観光産業に加えて新しい産業の育成などの経済構造の改革こそ、沖縄県がいま総力を挙げて取り組むべき課題となっている。
名目GDPが3428億円も減少
指摘するまでもないが、新型コロナにより沖縄県の観光は大打撃を受けた。県の文化観光スポーツ部によると、2021年の沖縄県の入域観光客数は301万6,700人、前年より71万9,900人、19.3%の減少となった。新型コロナ対策としての入国制限で外国人観光客は復帰後初めて暦年でゼロとなった。
これは新型コロナウイルスが感染拡大した20年との比較だから、数字的には20%弱の減少にとどまっているが、コロナ前の19年と比べると714万7,200人、70.3%の減少となる。県観光業界にとっては新型コロナで未曾有の事態となったわけだ。
しかし、この影響は観光業界だけにとどまるものではない。りゅうぎん総合研究所が先ごろ公表したレポートによると、入り込み観光客の減少で2021年の沖縄県経済の名目のGDPは3,428億円減少、実質の県GDPは6.6%ポイントの減少。また就業者数は3万4,390人減少し、完全失業率は1.9%ポイント上昇という。
これをみれば、入り込み観光客の大幅減が県経済に大打撃を与えたことが分かるだろう。換言すれば、沖縄県経済が観光業に依存していることを示しているわけだ。
もちろん、沖縄の観光は素晴らしい資源だ。海、海岸の美しさはもちろん、豊かな自然、気候、文化や食など国内外の多くの人を魅了する。これは沖縄にとっての宝だ。
さらに多くの人を魅了し、沖縄を訪れてもらえるように高度化する必要がある。
しかし、その観光だけに依存する経済構造は改革しなければならない。沖縄県の雇用環境は決して誇れるものではなく、完全失業率は全国平均を常に上回り、有効求人倍率は常に下回っている。それも、観光依存という経済構造も要因の1つだ。
経済構造の改革に目立った成果ない
経済構造の改革の必要性は沖縄県も認識し、さまざまな示唆を行っているが目立った成果は上げていない。
例えば、新しい経済構造を構築するためには情報通信関連産業の立地促進などが不可欠となり、県も情報通信産業振興地域制度の利活用の促進などの取り組みを進めているが、その歩みは遅い。情報通信産業を育成し、企業のDXなどを進めるためのデジタル人材UIJターン支援事業もほとんど成果を挙げていないのが実態だ。
若年者の雇用促進については、確かに就職相談の実施やセミナーの開催などを通じ、職業観の育成から就職までという総合的な支援を実施していることは確かだが、それで成果が挙がったとはいえない。若年者の失業率が高止まりしていることをみれば、何も解決していないに等しいのだ。
2022年度政府予算案では沖縄振興予算案として2684億円が計上されている。21年度予算の3010億円から326億円の減少となっているが、21年度補正予算の公共事業関係費等を含めると約 2900億円となり、膨大な予算が確保されていることに変わりはない。
この予算のうち主要なものが公共事業と交付金で、公共事業関係費等は1261億3,000万円、沖縄振興一括交付金は762億5,000万円が計上されている。この膨大な予算をうまく活用しながら沖縄の活性化を図るのが知事の務めだ。
「自立型経済」の構築を基本方針とするも
玉城知事は2月県議会の知事提案で「県知事に就任してから3年余りが経過した。この間、祖先(ウヤファーフジ)への敬い、自然への畏敬の念、他者の痛みに寄り添うチムグクルを大切にするとともに、『自立』『共生』『多様性』の理念の下、包摂性と寛容性に基づく政策を推進してきた」と胸を張ったが、経済構造の改革や地域振興でどれだけ成果を挙げたのだろうか。
「強くしなやかな自立型経済」の構築などを基本方針として掲げてはいるが、県民所得が全国で最低レベルにとどまっていることや雇用環境の改善はほとんどみられていない。
多様な産業の育成の必要性はこれまでも声高に叫ばれていたが、一向に進んでいないのが現実なのだ。コロナを契機として、観光産業に加えて新しい産業の育成などの経済構造の改革、経済活性化こそ、沖縄県がいま総力を挙げて取り組むべき課題だ。