キムタツコラム③教師と芸人の意外な共通点とは

 

 国内有数の進学校、灘中学校・高等学校(兵庫県)の元英語教員で「夢をかなえる英単語ユメタン」シリーズや「東大英語基礎力マスター」シリーズなど数多くの有名参考書を手掛けている作家の木村達哉さんのコラムが今回から始まりました。 「NPOおきなわ学びのネットワーク」 を立ち上げて沖縄の生徒の学びを支援しているなど、沖縄に縁深く活動している木村さんに、教育に限らずさまざまな角度からコラムを書いてもらいます。

1000枚の年賀状

 皆さん、明けましておめでとうございます。今年もまたHUB沖縄のコラムを読んでいただければ嬉しく思います。よろしくお願いします。

 さて、僕は年末ずっと沖縄で過ごしまして、ゆっくりさせていただきました。ちなみに正月は沖縄じゃなかったんです。3年ほど前でしたか、元旦に兵庫県西宮市の郵便局から電話をいただきましてね。自宅のポストに年賀状が入りきれないということでした。灘校の終業式が終わると沖縄に舞い戻ってきていましたので、12月20日頃から2週間以上沖縄に滞在することになります。そうなると1000枚ほどの年賀状が届く頃にはすでに郵便物でポストがぎゅーぎゅーになっているのです。郵便局からすると「沖縄でリラックスしているのに悪いねんけど、年末年始は自宅におってくれや」ということですね。というわけで、一昨年からは年末にいったん自宅に戻ることにしました。

 12月の滞在中はいろんな方々のお世話になりました。南城市教育委員会の皆さんが南城市の中学校や小学校の先生方向けに英語指導法の勉強会を開いてくださったり、那覇市教育委員会の皆さんがウチナーンチュの皆さんに向けて「幸せに生きるために」という演題でちょっと喋ってくれと依頼してくださったり、那覇西高校と開邦高校と興南高校が保護者や生徒たちに講演や授業をしてくれと言ってくださったり。ありがたいことです。いただいた講演料はすべて首里城再建のために寄付させていただきました。

吉本新喜劇には無くて沖縄のお笑いライブにはあるもの

 とりわけ心に残っているのがオリジン・コーポレーションの「喜笑転決ライブ」です。12月25日にテンブス館で行われたライブに、親しくしている興南高校の教員たちと行ってきました。「笑いながらクリスマスを過ごすものええやろう!」と言いながら、軽い気持ちで出かけていったのですが、いやぁこれが実に面白かった。何が面白かったって、確かに芸人さんのパフォーマンスも面白かったのですが、それ以上に楽しかったのが僕たち観客も参加できるというシステムです。関西人の僕は今まで何度も吉本新喜劇をはじめとするお笑いイベントに足を運んでいますが、このシステムは初めてでした。

 入口で2000円を支払いますとフライヤーがもらえます。登壇する芸人さんたちの名前や写真が掲載されているパンフレットです。くるっとひっくり返すと、裏面に採点表が付いているじゃないですか。それぞれの芸人さんのパフォーマンスが100点満点の何点だったのかを記入するんです。コメントを書く欄もありました。1組が終わるたびに点数をつけ、コメント欄に「面白かった!」とか「ぜんぜん面白くなかったぞ!」とか「ツッコミが甘いがな!」なんていうふうに、会場全員が記入するわけです。その採点用紙は出口で回収されます。そして、その採点結果が次回の「喜笑転決ライブ」の登場順や持ち時間に反映されるということでした。観客としても適当な採点をするわけにはいかないじゃないですか。自分がつけた低い点数のせいで、一生懸命努力している芸人さんが路頭に迷う可能性だってあるわけで、会場の皆さんはかなり真剣に採点しておられたように思います。ちなみに僕が一緒に行った興南の友人たちも、あれこれ言いながら点数をつけていましてね。うちひとりはびっしりとコメント欄に記入していました。通知簿や調査書のコメント欄を見ると隙間なく埋めないとどうにも気持ちが悪いという、教員チームならではの悲しきサガです。

駄目出しされてナンボ

 僕は15年ほど前に、教員対象に英語教師塾というのを立ち上げましてね。全国の先生方にブログやメルマガで募集をかけ、集まった人たちの前で何人かに公開授業をしてもらうのです。持ち時間はだいたい20分。終わってから、授業に点数こそつけないのですが、生徒役の先生方からコメントをもらうという「塾」です。良いところは褒めるにしても、褒めてばかりでは成長につながりませんよね。ここは良くなかったぞという部分はしっかりと指摘することになります。「えー、あのぉ、うー等の余計な言葉が多すぎます」とか「説明が冗漫で聞いていられませんでした」とかいったコメントが、授業役の先生方に寄せられるのです。先生方はそれらを自分の授業に反映させるという「塾」で、いつも150人ほどの先生方がすべての都道府県からお集まりになります。150人の前で授業をする先生方も大変ですが、生徒役の先生方もしっかりと受講しないといけません。授業をする先生方に失礼ですからね。授業をする側も受ける側も成長できるのがこの英語教師塾の良いところです。

 オリジン・コーポレーションの芸人さんたちの採点をしながら、その英語教師塾のことを考えていました。いやぁ、こういうシステムは芸人さんを育てます。と同時に、観客の見る目も育てます。この厳しいシステムに反対する人たちもおられるかもしれませんね。でも、教師にしても芸人さんにしても、駄目出しされてナンボです。そこがスタートラインです。他のどんな仕事だって同じじゃないでしょうか。誰にも駄目だと言われなくなったら成長は止まりますからね。

 1組目が始まる前に、まず採点基準をしっかりと決めておかないと芸人さんたちに失礼でしょ。僕の場合はそれぞれの舞台をもっと聞いていたいかどうかを物差しの中心とすることに決めました。早口で聞き取れない箇所が多い場合は減点したり、逆に思いもよらないツッコミが入った場合は加点したりしているうちに、あっという間にすべての芸人さんたちの舞台が終わりました。そういう形で自分もお笑いライブに参加したという気持ちがさらなる興奮を呼ぶんですよね。終了後は一緒に行った友人たちと焼肉屋さんに入りました。採点したこともあって、それぞれの芸人さんたちのことをよく覚えているんですよ。あの人たちは上手かったよなぁ、あの人は声が聞き取りにくかったなぁ、ところで俺たち焼肉を何人前食べてるねん!などと言いながら、そして大笑いしながら、クリスマスの夜は更けていきました。

 素敵なクリスマスとなりました。オリジン・コーポレーションの芸人さんたちに感謝しています。ちなみに次回の「喜笑転決ライブ」は1月22日にテンブス館で行われますが、また参加させていただこうと思っています。そして、次回はコメントを記入しやすいように、下敷き用のバインダーを持参してやろうと考えております。

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木村 達哉

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作家、関西学院大学フェロー、新潟産業大学客員教授、NPOおきなわ学びのネットワーク理事。オリジン・コーポレーション所属。2021年3月まで灘中学校・高等学校教諭。奈良県出身。沖縄で愛犬さくらと一緒に年の3分の1ほどを過ごし、県内の学校や教育機関で英語授業や講演を行う。
趣味はゴルフ。そのわりに90を切ることができずに苦しんでいる。

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